インタビューズがオワコン化してしまったのですが自分で書いておきながら気に入ってしまってどうしても捨てきれない記事があるのではてダに移植します。

印象深い人間っていますか?その方について教えてください。

どのような意味で「印象深い」人について聞かれているのか解かりませんが、質問を聞いて思い浮かんだ人が一人しかいないので、その方について話そうと思います。

初めて会ったのは大人数での飲み会です。僕の後ろにいた人と話していました。狭い場所に無理やり入りこんできたので、ぶつかりそうで邪魔でした。きっと向こうもそう思っていたでしょう。好きなものについて話しているようでした。それは僕の好きなものではありませんでしたが、僕はそちらの話が気になってしまって、変な対抗心を燃やしたのか、自分の話していた相手と相手の好きなものについて楽しく話しているかのように装っていました。それもまた、僕の好きなものではなかったのですが。背中が当たります。するとその人は突然振り向いて、「○○は好きですか、××のなかで好きなものはありますか」と僕に聞いてくれました。僕は、好きではありません、よく知りません、と答えました。
しばらく後に、駅のエスカレータで遇いました。僕は上で、2段下にいる友人と喋っていて、その人はさらに2段下にいました。初めはその人と解かりませんでした。目が合いましたが、その人だとすぐに判別できず、挨拶をし損ねました。その人は僕を僕と気づいたようでした。

何度も顔を合わせることがあったし、長くはありませんが、天気の話じゃない、会話もしました。でも挨拶だけはどうしてもできない。もしかしたら僕は淡い色をした憧れを抱いていて、恥じらいのようなもののせいで挨拶ができないのではないか、そう考えたこともありました。でも、おそらく、そのような類のものではなかったと思います。会うたびに、話すたびに、僕はとてもこわかった。その人の目が、とてもこわかった。僕の知識の浅さや、嘘で固めている部分、笑顔をつくってごまかそうとしていること、すべて見抜かれているようで。周りに知識をひけらかしたりはしないけれど、その人がとても多くの物事を知っている、と知っていただけに余計に。それまでは憧れていた、いわゆる文学少年、を避けるようになったのは、たぶんその人が原因です(文学少女をとくに恐れることがなかったのは、文学少年と文学少女は字面が似ているだけでかなり質の異なるものだからです)。僕もあの人みたいになりたい。こわいと思いながらも、どこかでそう思っていました。そういう種類の憧れだったと思います。

あるとき、取っている授業が一緒だったことがありました。その人は教室の前方に座っていて、僕はそれに気づきましたが、またどうせ挨拶できないんだろうと諦めていました。授業が終わって帰る支度をしていると、視界に一瞬、影が差し、また明るくなるのを感じました。目を上げると、すこしばつが悪そうに、「あ、この授業取ってるの」とその人が。取ってるから出席しているのですよ、と思いながら、こくりと頷くだけでした。それからちょっとがんばって挨拶、というか、会釈、くらいはするようになるのですが、しばらくするとまたできなくなります。

それから今まで、ずっと、まともに挨拶できていません。そのくせ、やたらと出くわします。たぶん、嫌われていると思われている、と思います。でも、印象深く残っているし、むしろより深くなっていくと思います。そういう方でした。


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