僕は歩くのが速い。なにをそんなに急くことがあるのか、いそいそと歩く。
僕は前の人にちんたら歩かれるのが嫌い。遅いならせめて端に避けてろ。
だから、人ゴミを歩くと、僕は、なんだかコワイ人になる。苛立っているし、舌打ちするし、小声で悪態をつくこともある。我ながらどーなのよって思う。
人ゴミをぬって進むあの感覚はきらいじゃないけれど、舌打ちとかしちゃう自分になってしまうのはすきじゃない。
歩をゆるめると人ゴミは楽しいものになる、それは知っているのだが、セカセカした僕にとって、それはいつもできることでも、簡単にできることでもない。

ときどき、僕は、イライラするためにわざと人ゴミを歩く。
「俺の前でてろてろ歩いてんじゃねーよ」を幾度も唱えながら、「くそが」と罪のない人々に心の中で毒づきながら、苛立っている自分に舌を打ち、苛立ちをさらに増長させながら。
イライラするために、わざと人ゴミを歩いている。